マントル深部における含水SiO2スティショバイトの限られた安定性(2024.7.11)

沈み込み帯では海水と反応した海洋プレート内の名目上無水鉱物や含水鉱物によってマントル内部に水が輸送されます。そのため水を含む鉱物の安定領域や含水量を明らかにすることは、地球深部の水循環プロセスを理解する上で非常に重要です。地表を構成する地殻(大陸地殻・海洋地殻)に普遍的に含まれるSiO2鉱物は、地表では石英として安定ですが、上部マントルから下部マントルの幅広い温度圧力条件では結晶構造が全く異なりより高密度なスティショバイトとして安定です。近年の研究で、Alを含まない純粋なスティショバイトに1wt%を大きく超える多量の水が保持されることが示され、下部マントルにおける主要な水輸送の担い手として期待されています。このことは、スティショバイトの結晶格子が水の溶解に伴い膨張すること(過剰体積)の観察から示唆されてきました。しかしこれまでは、よく制御された高温高圧下の水飽和条件下でその観察を行なう技術がなかったため、過剰体積が見られる温度圧力条件は先行研究によって大きく異なっており、含水スティショバイトの安定性には疑問が残されていました。
そこで本研究では、技術開発を行うことによりマルチアンビル装置を用いたその場X線観察を水飽和系において実現し、圧力10-30GPa・最高温度1300℃までのSiO2スティショバイトの格子体積を調査しました。実験の結果、加熱開始後に最初に結晶化した含水スティショバイトの膨張率は最大で3.8%と大きな過剰体積が見られましたが、この過剰体積は温度の上昇および時間経過に伴い急速に減少することが分かりました。そして700℃以上では、格子体積はほぼ無水の値と等しくなりました。さらにその後降温しても、過剰体積は観察されませんでした。これらのことは、SiO2スティショバイトへの水の溶解は準安定的な現象である可能性を示しており、温度が1000℃を超える下部マントル最上部ではSiO2スティショバイトは安定相として水輸送の担い手になる可能性は低いことが明らかとなりました。(高市 合流)

Limited stability of hydrous SiO2 stishovite in the deep mantle. G. Takaichi, Y. Nishihara, K.N. Matsukage, M. Nishi, Y. Higo, Y. Tange, N. Tsujino, and S. Kakizawa, Earth and Planetary Science Letters, 640, doi:10.1016/j.epsl.2024.118790

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