高温高圧下のD相の変形誘起結晶選択配向
【研究のポイント】
・地球のマントル深部の温度圧力で高圧含水鉱物D相の変形実験を行ないました。
・D相の変形では底面((0001)面)に沿ったすべり変形が支配的であることが分かりました。
・D相の変形によって生じる結晶選択配向がマントル深部の地震波速度の異方性の原因の一つかもしれません。
【研究の概要】
高圧含水鉱物の一つで地球のマントル遷移層から下部マントル上部に存在すると考えられているD相を、高温高圧条件(圧力20 GPa、温度500~1000℃)で変形しました。圧縮変形や剪断変形などの異なるスタイルの変形実験の結果を総合すると、D相の変形では結晶構造中の底面((0001)面)に沿ったすべり変形が卓越しており、これによって、結晶が特定の方位に配列する結晶選択配向が起こることがわかりました。このことから、沈み込み帯付近のマントル深部で観測されている地震波速度の異方性の一部はこのD相の存在によってうまく説明できることが明らかになりました。
地震波のうち横波であるS波は、弾性異方性を持つ物質中を伝わる時には、速度と振動方向が異なる2つの波に分裂します。このようなS波分裂は世界中で観測されており、地球マントル中に異方性を持った領域が存在することが分かっています。そして、その異方性は一般的にマントルを構成する鉱物が特定の結晶方位に向きがそろう「結晶選択配向」が原因であると見なされています。
下部マントル上部(深さ660~約1200 km)の沈み込むプレート近傍には、普遍的に地震波異方性が存在することが知られており、そこでは、水平方向に振動するS波が鉛直方向に振動するS波より高速となります(VSH > VSV;VSV、VSHはそれぞれ鉛直方向と水平方向に振動するS波の速度)。高圧含水鉱物D相は、マントル遷移層下部と下部マントル上部に相当する温度圧力で安定であり、プレートの沈み込みによってもたらされた水の存在のためにこの領域のマントル中に存在する可能性が高い鉱物です。また、D相結晶は弾性的異方性を持つため、観測されている地震波異方性の成因となっている可能性があります。
この可能性を検証するために、我々はD111型装置という高圧変形実験装置を使って、D相の変形実験を高温高圧(20GPa、500~1000℃)で行いました。圧縮変形や剪断変形などの異なるスタイルの変形実験の結果を総合すると、D相の変形では結晶構造中の底面((0001)面)に沿ったすべり変形が卓越しており、これによって、結晶選択配向が起こることがわかりました。このことから、沈み込み帯付近のマントル深部で観測されている地震波速度の異方性の一部はこのD相の存在によってうまく説明できることが明らかになりました。(Wentian Wu,西原 遊)
Crystallographic Preferred Orientation of Phase D at High Pressure and Temperature: Implications for Seismic Anisotropy in the Mid‐Mantle,Wentian Wu, Yu Nishihara, and Noriyoshi Tsujino, Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 129, e2024JB029734, doi:10.1029/2024JB029734