地球下部マントル鉱物の格子熱伝導率(κlat)は、地球深部のダイナミクスや熱的歴史を理解するうえで鍵となる物理量の一つです。愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター・鉱物物性理論グループに所属する私(出倉)は、土屋センター長とともに10年以上にわたりマントルのκlatの第一原理研究を推進しています。その長年の研究経験を通じて培った専門知識から、下部マントル鉱物のκlatに関するレビュー論文の執筆を依頼されました。本論文では、下部マントルの主要な構成鉱物群(MgO,MgSiO₃ブリッジマナイト(Brg)およびポスト・ペロブスカイト(PPv))に関する理論および実験研究を広範にレビューするとともに、実験値との比較を通じて様々な理論計算手法を比較・検討しました。私が主に用いている第一原理非調和格子動力学手法についても詳しく記述しました。また、それらの鉱物間のκlatの大小関係(図1)とその物理学的な要因、κlatに大きな影響を与える鉄固溶効果、そしてこれまであまり包括的に議論されてこなかった、下部マントル鉱物のκlatに対する同位体効果や高次非調和効果についても言及しています。最後に、マントルの熱輸送の研究における現状の課題と今後の展望をまとめました。(出倉 春彦)
Recent progress in the study on phonon heat transport property of Earth’s lower mantle minerals. Haruhiko Dekura and Taku Tsuchiya, Journal of Physics: Condensed Matter, 36, 413005 (Topical Review), doi: 10.1088/1361-648X/ad5b46