巨大氷惑星のマントル上部におけるダイヤモンド生成(2023.10.20)

天王星のマントルの化学組成モデルは、太陽系の元素存在度をもとに水(H2O):メタン(CH4):アンモニア(NH3)=7:4:1の混合比になっていると推定されている(e.g., Bethkenhagen et al., 2017)。主要成分のひとつであるメタンは高温高圧下で分解し、2000-3000 K,10-80 GPaにおいてダイヤモンドを生成することが報告され、“ダイヤモンドの雨”が降るとして注目されている(Anchilotto et al., 1997; Benedetti et al., 1999; Hirai et al., 2009)。また,メタンハイドレートを用いたレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル (LHDAC)による実験では,メタンのみの場合に比べ400 Kほど低温の温度条件でダイヤモンドが生成し、水の存在がダイヤモンド生成条件に影響を与えることが報告されている (Kadobayashi et al., 2021)。一方,有機高分子を出発試料とした実験もあり、ポリスチレン(PS)を試料とした衝撃圧縮実験では5000 K、150 GPaという比較的高温高圧条件でようやくダイヤモンドが生成している(Kraus et al., 2017)。これに対しポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた静的圧縮実験では1400-1900 K、8-9 GPaにてダイヤモンド生成が確認された(Kondorina et al., 2018)。ダイヤモンドが生成する温度圧力条件の違いは、試料の組成や実験手法の違いによって生じると考えられる.より低圧低温でダイヤモンドが生成したPET試料は、炭素と水を組み合わせた元素比ではあるがベンゼン環を含む芳香族化合物であり、化学組成比もやや異なることから天王星内部を模擬する場合に適切ではないと考えられる。
本研究では、天王星マントル上部におけるダイヤモンド生成条件の推定を目的とし、最も単純な高分子であるポリエチレン(PE, (C2H4)n)と水(H2O) (体積比1 : 1)を用いて高温高圧実験を行った。この試料の組成比はC : H : O = 2 : 6 : 1で先行研究よりも天王星マントルの組成比に近い。高圧の発生にはダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用い、加熱にはCO2レーザー加熱光学系を用いた。加熱前後の試料に対してラマン分光測定、加熱後の試料に対してXRD測定による相同定、SEMでの組織観察を行った。
実験の結果、1800 K、14 GPa以上の条件においてダイヤモンド生成を確認した。また、それよりも低温低圧下では非晶質炭素が生成した。またラマン分光測定から水素分子の存在も確認され、高分子が炭素と水素に分解する反応が起きたことが確認された。比較としてポリエチレン単体での高温高圧実験を行ったが、XRD測定の結果、ダイヤモンド生成は確認できなかった。このことから、高分子を用いた実験でも水が触媒の働きをしてC-H系の分解を促進していると考えられる。高温下での水成分による炭化水素の分解は水蒸気改質として知られており、工業的な水素製造に用いられている。分解反応により炭素が晶出した際に、それがダイヤモンドとなるかどうかは単純に炭素の相図に準ずる。この際、グラファイトからのダイヤモンド生成条件に比べややマイルドな条件となるグラッシーカーボンからのダイヤ生成条件と整合的な結果が得られ、巨大氷惑星の氷マントル上部が>10 GPa、>2000 Kの条件であるならばマントル最上部からダイヤモンドが晶出するといえる。なお、この研究は2022年度卒業の劔持嘉君の卒業研究として行われた。(境 毅)

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